人気のある弁護士になれるのは、マグロ解体技術を持つ寿司職人だけだ

            

タイトルだけを見ると、一体何が言いたいかわからないと思うのですが、クライアントに人気のある弁護士と、賢いのに、全然人気のない弁護士を分かつ基準の1つがマグロ解体技術の有無にある、ということです。

もちろん、これは比喩であり、実際に弁護士が解体の対象にできるのは、マグロならざる生の案件であり、複雑極まる案件を解体して、まず捨てるところと残すところに分け、残すところを大トロ、中トロなど少量だが高額のところから切り分け、最後には食べられる部分は全部おいしく食べられるように仕上げる技術を意味します。

 

弁護士を25年やって来て、本当に驚くのは、馬鹿にこれができるとは言いませんけれども、世間ではとても賢いはずだと評価されているはずの東大卒の弁護士でも、1匹のマグロを丸ごと渡されて、これを上手に解体できる職人は極めて少なく、上手に解体された後の一部を渡され、それを上手に料理に仕上げる技術しか持たない職人が過半数を占める事実です。

 

このような驚愕の事実がなぜ起きるのでしょうか?

 

1つには、大手の法律事務所では、長い間、弁護士はアソシエイトとして優秀なパートナーの指導のもとで下働きばかりしますから、何時まで経っても、マグロ解体をさせてもらえる機会が付与されない、という機会の問題があるかもしれません。

 

もう1つには、偏差値教育の弊害で、「絶対に間違ってはいけない」という強迫観念が強く作用し過ぎ、その結果、1匹のマグロを解体するという大きな責任を伴う場面で躊躇が起き、クライアントに「先生、このマグロを結局、どう料理するつもりですか?」と尋ねられた際、「丼ものなどの日本料理も良いかもしれませんし、イタリア料理風に仕上げるのも良いかも知れませんし、フランス料理風も捨て難いかもしれませんね」など、絶対に間違いのない無難な回答しかしないことに起因するかもしれません。

 

こうした場合、ダブルオピニオン徴求目的で私のようなタイプの弁護士のところに同じ案件が来て同じ質問を受けた際に、「そもそもあなたはこのマグロをどうして欲しいのですか?」と逆質問をし、結局、クライアントが早くから持っているマグロ料理に対する希望を聞き出し、そのイメージに合う料理を絞り込んだ後に、細かいメニュー選択を提示するというコミュニケーション型解体モデルを提示されるときには、クライアントは必ずこちらを選択しますから、結局、クライアントの選択の結果、マグロ解体をさせてもらえる機会が付与されない、という機会の問題が生じます。

 

マグロ解体技術はマグロ解体の機会を多数持つことによってのみ確保できるのに、それが組織的原因、本人の当たり障りのなさすぎるアドバイスに起因する原因などにより何時までも付与されないことになれば、結局、もともと料理学校の成績はNo.1であったとしても、マグロ1匹をドンッと目前に置かれた場合にその技量を活かすことはできないという結果が生じ得るのです。

 

そのほか、2つ、3つ、マグロ解体の機会が付与された後、それで自分はわかったと勘違いをしてしまい、マグロ解体技術の向上と解体後の料理のレパートリー増加に黙々と努める勤勉さを欠く弁護士も極めて多い、と確信します。

 

弁護士、特に私が所属する国際弁護士が引退するまで力量を上げ続けるためには、奥の深い語学(私の場合、中国語、英語)を常に向上させる必要があるし、比較法的観点から外国法(私の場合、中国大陸法、香港法をはじめとするEnglish common law法域の法)についても同様ですし、それを内に秘めたままで世間的批判を受ける機会に晒さなければ、果たして自分の競争力がどの程度であるかについて一切わからないことになってしまいますので、必ず論文を書いて発表し、セミナーを実施してアンケートを取り、それを真面目に検討するという知恵と工夫が必要になります。

 

もちろん、それと並行して、同一テーマについて他の弁護士が執筆した論文を検討し、自分が持つ見解と理由がクライアントにとってよりよい解決を付与するものであるか否かを不断に検討しなければ、技量向上を図ることができませんから、それを必ずすべきです。

 

しかし、それを続ける人は驚くほど少ない。本当に本当に驚くほど少ないのです。

 

結局、弁護士の一生は、アスリートや職人と何ら変わるところなく、一切の妥協を捨てて、日々、ハードワークを繰り返すしか向上の方法がないのに、私の場合で言えば25年の間、ずっとそれをやり続ける根性と執念がある競争者が余りにも少ないので、常に一定数のクライアントが私に大小様々な仕事を持ってきてくれる構造が定着します。

 

大手弁護士事務所で人気がある弁護士と言っても、その看板をはずして、たった1人で事務所を立ち上げ、隆盛を誇っている久保利大先生のような方は稀である事実は、結局、1人だけの技量でクライアントを魅了できるだけの辛い修行を来る日も来る日もさぼらず継続する弁護士がいかに少ないかを物語っている、と確信します。

 

是非、同志の皆さんは、日々の修行を通じて、すしざんまいの大将に負けないお客様を心底喜ばせる高いマグロ解体技術を持った弁護士になるべく頑張りましょう。

 

高い技術に裏付けられたこの種の作品にはseasonality(季節性)があり、ある時期を過ぎれば無用の長物と化す。私たち弁護士の書く論文やニュースの類もそれに似て、ある時期においてクライアントが必要とする事柄について必要な情報を満載して世に送り出す。長期通用する1つの法律についての考えをまとめた学者の論文とは目的や意義が異なるのである。しかし、それは一方で潜在的クライアントを含むクライアントの役に立つと同時に、他方で自身の力量、何よりも学者や裁判官と異なり、目前の案件をクライアントの最善の利益に資するような方法でいかにして捌くかに関する力量を向上する格好の機会となる。若い弁護士は誰でも良い。法律家としての高い基本技術を有し、同時にクライアントを魅了する技術を有する弁護士を見付け、なぜその弁護士が高い基本技術を有し、クライアントを魅了する技術を有するか、よく観察することだ。私のロールモデルは今も昔も出身母体(大江橋法律事務所)の創業者、石川正弁護士であるが、石川正弁護士は朝から晩まで勉強し、猛烈に働き、クライアントに対して常に親切で、契約書、意見書は誰が読んでも必ずわかりやすいものであった。私は師匠を何時か追い抜くべく、師匠を真似続けているだけである。

 

以上


■筆者: 村尾龍雄■-----------------------------------------------------------------
弁護士法人キャスト 代表弁護士・税理士
香港ソリシター(LI&PARTNERS(香港)所属)
キャストコンサルティング株式会社 代表取締役
加施徳咨詢(上海)有限公司 監事
加施徳投資香港有限公司 董事
キャストグループ   キャスト中国ビジネス
■東京/大阪/埼玉/上海/北京/蘇州/広州/香港/ヤンゴン/ホーチミン■----------------



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