私たち弁護士は決して危機管理のプロではない

            

私たち弁護士は自分ができもしないことを「できる」と述べることは許されません。

香港ソリシターの職業倫理ガイドラインでも、“A solicitor owes his client a duty to be competent to perform any legal services undertaken on the client’s behalf.(ソリシターは、クライアントに対して、クライアントを代表して引き受けたいかなる法律サービスも履行する能力を有する義務を負う)”とされ、自分ができもしないことを「できる」と述べて、その結果、「できなかった」現実が生じれば、その法的義務違反(委任契約違反)を理由として、クライアントから損害賠償請求(common law damages)を受けるおそれがあるほか、当該ガイドラインが規定する倫理義務(ethical duty)違反を理由として、懲戒手続き(disciplinary proceedings)を開始され、懲戒処分を受けるリスクが生じます。

 

ところで、近時、弁護士が不祥事を起こした企業から2つの局面で依頼を受ける場面が増えています。

 

その1つは、第三者委員会の委員、又はその補助者としての仕事です。この仕事は、不祥事が起きた原因をインタビューし、書面証拠を確認し、そこから事実を認定し、法律を発見、解釈、適用して取締役の善管注意義務違反の有無などの法的判断を下すものですから、会計、税務に関して会計士、税理士の助力を仰ぐ場面こそあれども、弁護士はプロとして受任することが可能でしょう(ただし、現在の役員に大きな問題があっても、その後の継続的受任という下心を理由として、現在の役員の法的責任を曖昧にしたままにし、その結果、不祥事の根本原因である現在の役員の留任を手助けするという、クライアント=企業(ひいては背後の株主)の利益を犠牲にして、現在の役員≠クライアントの利益を優先する「利益相反弁護士」が存在することも100%間違いのない事実ですし、それが有名事務所の弁護士がやらかす場合があることも100%間違いのない事実であり、とても悲しい思いに駆られますが・・・)。

 

もう1つは、企業が不祥事を起こした場合の企業としての対応についてです。この仕事には、企業のトップが会見するか否か、会見するとしてそのタイミングの選定、そして実際に会見する場合における記者からの質疑応答に対応する場合の事前のQ&A作成、修正などが含まれるわけですが、まず強調したいのは、これは単純な法律問題ではありません。単純な法律問題でないばかりか、法律問題の要素が圧倒的に少なく、非法律問題の要素が圧倒的に多いのです。

 

具体的には、多数の著名人とマネジメント契約をする企業において一部の著名人が不祥事を起こし、その取扱いを巡って企業が会見を行うべきか否か、行うべきとして、タイミング如何、そして事前のQ&A作成、修正を論点とする相談があったと仮定する場合、社長が会見に応じるとすれば、それはその会見により、\ご屬糧稟修魄貳でかわすか、それを相当程度緩和することができ、そして同時に⊆卍垢覆標什澆量魄に強い不満を抱く多数の著名人という身内にも「けじめをつけた」と納得させるだけの結果をもたらすものでなければなりません。

 

それができないのに、準備不十分なまま会見を強行実施すれば、社長が述べた多数の発言を否定するかの如き身内からの暴露が相次ぎ、社長の謝罪会見に虚偽が混入することが発覚し、結局、会見後、\ご屬糧稟修楼豼惴靴靴い發里砲覆蝓↓⊆卍垢覆標什澆量魄に強い不満を抱く多数の著名人のうち相当数が(書面のない)マネジメント契約を破棄し、他事務所に移籍するなどの「資産棄損」問題が生じるという、「会見など、やらなければよかったのに」という最悪の結果が生じることがあり得ます。

 

このようなトホホな結果が生じる背景には、もちろん当該企業の最有力著名人が早期の会見実施を働きかけ、会見実施を短絡的に決めざるを得なかったという社内事情も働くのかもしれませんが、\ご屬らの批判回避又は緩和、⊆卞發涼名人の企業に対する不信感の払拭という会見の本来的目的を達成するための合理的手段が整っているかを確認し、それがまだであるというのならば、体を張ってでも(=クライアントが従わない場合、辞任する表明をしてでも)、その会見実施のタイミングをずらすことを提言し、´△量榲の達成のための合理的手段を整えるために最低限必要な時間を確保するのが弁護士としては当然のはずです。

 

しかし、そもそも、そこまでしたとしても、業界のことをよく知りもせず、法律については専門家かもしれませんが、社会人としての成熟度が一般の企業人と比較して果たしてどうか、私自身を含めて疑問符のつく弁護士だけが事前Q&Aを含めて出す知恵だけで、´△量榲を達成できる合理的手段を整えることができるとは到底思えません。

 

表ざたになっていないだけで、有名事務所の弁護士が不祥事を起こした上場企業の役員に明らかに誤ったアドバイスを行った結果、\ご屬糧稟修一層厳しいものになり、∩枋螻阿紡真瑤量魄が退任せざるを得なくなったという事案もあるのであり(=週刊誌が書く寸前まで行きながら、結局、有名事務所への忖度が働いたか、記事にはならなかったにせよ、狭い弁護士業界では情報は流れます)、これらもまた氷山の一角に過ぎないと断言できます。

 

自称「危機管理」を標榜する弁護士は一定数存在しますし、その弁護士が実際に「修羅場」を平定した(=上記´△量榲を合理的手段考案により達成した)トラックレコードがあるのであれば、そう標榜することは許されますが、その場合にも乗り越えた「修羅場」と目前のクライアントが解決を望む「修羅場」が事実として同一又は類似するのか、過去の「修羅場」平定の実績を応用できる場面なのかの射程範囲論を考えずに、「危機管理」全般が専門などと標榜することは「できないこと」を「できる」というに等しいですし(=根拠なき断言bold assuranceの批判が妥当します)、まして、座学で勉強しただけで「修羅場」平定の経験なしに「危機管理」専門を謳うのは、笑止千万です。

 

以上より、世間一般の皆さんは、私たち弁護士には一般の企業人よりも場合によっては社会人経験が不足し、「修羅場」の経験もなく、頭だけで物を考える傾向が明らかにあることを明確に認識し、非法律的要素が圧倒的多数を占める「危機管理」を身近の弁護士に依頼するという愚行はやめるべきだ、と強く提言したいと考えます。

 

私であれば、23年間、中国人や中国政府、中共中央がどのような思考をするのかの研究を継続し、しかも多種多様な「修羅場」救済のトラックレコードを持つ中国ビジネスに関係する「危機管理」であれば、非法律的要素が圧倒的多数を占める事案でも無事、乗り越えることができる確率を高めることができる(=結果はそれでも保証できない)と確信しますし(=一番専門性が高い)、▲▲瓮螢以外のcommon law jurisdictionにおける紛争についても日本人弁護士の中では有意義な知恵出しをして、各法域の弁護士と意見交換ができると思いますし、C税の懸念のある日本の税法事案で、とるべき道を示すこともできると思いますが、´↓0奮阿痢峇躓ヾ浜」は専門外なので、他の専門家に依頼するか、又はクライアントが私も関与することを希望する場合に限り、そうした専門家と協働するアプローチをとります。

 

そもそも専門外の相談事項を、できもしないのに、できる振りをすることは、クライアントの最善の利益ではなく、弁護士の利益を優先しようとする選択なのであり、それこそ構造的に利益相反(=conflict of interest between a lawyer and his client)の典型です。

 

クライアントである企業に想定される最悪の結果を背負わせることがあり得るとすれば、弁護士として恥ずかしくないのか、と心から思います。

 

ところで、最後に、上述の「仮定」の多数の著名人を抱えるマネジメント会社がどのようにしていたら、うまく行ったと「仮定」できるかですか?

 

もちろん、「仮定」のお話ですが、私にそのような企業から依頼があったと「仮定」すれば、自分で決して受任することなく、即時、大阪府知事であられた時代に、府の特別顧問としてお仕えした橋下徹弁護士に連絡し、事件受任をお願いしたでしょう。

 

その理由は明白で、(杆郢里涼罎砲△辰董行政同様、業界事情に極めて明るい、△罎┐砲修硫饉劼梁真瑤涼名人をご存知のはずである、そうすると、短期のうちに、現在の役員の擁護派と不満派を峻別し、それぞれから話を聞き取り、どのような会見があれば彼らの心に響くかが判断できる、い修Δ垢襪函△修里茲Δ僻獣任会見の事前のQ&Aに反映される、イ修侶覯漫会見は橋下弁護士の著名度も相まって、世間の批判を低下させ、反対派の著名人すらも「それなら、仕方がないかも」という妥協的心理に持っていけたかもしれない、との判断が合理的に成り立つからです(最有力著名人が会長、社長、副社長とベタベタの関係にある場合、その最有力著名人の人望がいかに厚くても、現在の役員に強い不満を持つ著名人らを心理的に平定することは不可能なので、橋下弁護士のような仲介者が必要です)。

 

マスコミも、社長よりも会長よりも著名で、行政手腕がピカ一の橋下弁護士が登場するだけで緊張するでしょうし、そもそも弁護士を含めて人の言うことをどこまで聞くかが不明の社長にも事前に一喝をかましたうえで、アホな会見での言動をさせることを抑制したのでは、と思います。

 

皆さんは、橋下弁護士が私を含む一般の弁護士や、一般の企業人とは量も質も全く異なる、極めて多数の「修羅場」を乗り越え、平定してきた歴史を持つ弁護士の枠を超えた存在だということをご存知ですね?

 

上記「仮定」の会見を短期間で成功裏に導こうとすれば、このクラスの弁護士(というか、その概念を遥かに超える存在)でなければ、不可能であった、と思うのです。

 

是非、企業の皆さんにおかれましては、今後の参考にしてください。

 

何度も念押しをしますが、私たち弁護士は決して「危機管理」のプロではありませんよ。特に勉強ばっかりしてきて、人生で「修羅場」らしい「修羅場」なしに来ている「エリート」弁護士に、「危機管理」なんて、できるわけないやんって、思い切り、思ってしまいます。

 

弁護士の選定と使い方をくれぐれも間違ってはいけません。

 

 

 

 

スイスチューリッヒのアイアンマンに出場したが、自転車2周目で人生初の熱中症になり、途中で寝たりして、フラフラになりながらハーフマラソン付近まで走ったが、体も痺れて、こりゃ、さすがにまずいと思い、無念のリタイア。今回は直前に自転車830キロも乗り、真面目に練習したので、残念無念。しかし、悔しいので、いくら多忙を極めても、言い訳一切なしで、今後3年間は真面目に練習することにした。私のレベルは低いので、3つの種目のどれでもレベルアップする「伸びしろ」に満ち溢れている。54歳の今、レベルアップしないと、目標である80歳以上の年齢でアイアンマン完走は言うだけで終わってしまう。それは自分の人生訓に反するので、体の酸化防止策も考えながら、一生懸命頑張る。転んでも(=自転車で転ぶのだけは勘弁だが)、タダでは決して起きないゴキブリの如き精神力及び体力のみが自分を支える。やるぞー。11月のアリゾナでリベンジだ!

 

以上


■筆者: 村尾龍雄■-----------------------------------------------------------------
弁護士法人キャスト 代表弁護士・税理士
香港ソリシター(LI&PARTNERS(香港)所属)
キャストコンサルティング株式会社 代表取締役
加施徳咨詢(上海)有限公司 監事
加施徳投資香港有限公司 董事
キャストグループ   キャスト中国ビジネス
■東京/大阪/埼玉/上海/北京/蘇州/広州/香港/ヤンゴン/ホーチミン■----------------



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