香港デモ参加者との会話−香港の安定を取り戻すための処方箋

            

「逃亡犯条例」採択に抵抗して2019年6月16日に200万人近いデモが行われた香港ですが、それに参加した香港人(Xさん)と会話する機会がありましたので、以下、対話形式で紹介します。

村尾:先般香港で200万人近いデモが行われたそうですが、あなたも参加したのですか?

 

Xさん:もちろん参加しました。私はもともと政治に余り興味がありませんでしたが、今回ばかりは参加しなければと思い、余りにも暑くてフラフラでしたが、参加を決意したのです。

 

村尾:今回は若者中心ではなく、老若男女を問わず参加した傾向が顕著ですね。

 

Xさん:ええ。現場では私同様、過去デモに積極的に参加したことがない老夫婦も高温多湿の気候と爆発的数の人間の体温が生み出すサウナの如き暑さがミックスする最悪の環境にもめげずに行進していました。

 

でも、気分が悪くなった人を救急車が助けに来たときは、モーゼではありませんが、爆発的数の人々が海が割れるが如くサッと圓紡爐い董救急車を通すのに協力するなど、民度の高いものであったと自負しています。

 

村尾:200万人というと、2003年の国家安全条例撤回を求めるデモや2014年の雨傘革命の際の50万人規模の4倍ですよね。6月15日のデモも100万人規模でしたから、その2倍。両日のべで300万人が参加した計算になります。

 

あなたには何を言っているかわからないかもしれませんが、300万人と言えば、阪神巨人戦(5万人)の60倍、神戸市や福岡市の人口(約150万人)の2倍、ちなみに岡山県新見市(約3万人)の100倍です!

 

Xさん:200万人デモは香港の人口(約750万人)の4人に1人が参加した計算となるのです。

 

村尾:それだけ多くの香港人が参加するくらいですから、北京に対する抵抗感は私のようにドップリ中国につかっている日本人の何倍も強烈ですね。

 

Xさん:もちろんです。私たちは香港が元々有していた自由を取り戻したいのです。

 

村尾:でも、英国統治下の香港では、中国への復帰を見越して、北京に足枷をはめるべく、1991年に香港人権法案条例(The Bill of Rights Ordinance, Cap. 383)が制定されましたが、それ以前は1842年以降150年近くも香港人の基本的人権すら保障する条例がありませんでしたし、現在の行政長官に相当する総督はもちろん、政府の枢要なポストは英国人により独占されていたのですから、見方によっては、現在のほうが香港人にとって自由な法的環境が整備されているということはできないでしょうか?

 

Xさん:・・・余り、そういう考え方をしたことはありませんでした。

 

村尾:香港は今回の200万人デモで立法会に対する暴力行為に及ぶなどの狼藉を働いた100人程度の者を逮捕したかもしれませんが、デモを含む表現の自由は高度に保障しており、仮にそれを侵害する政府行為や立法があれば、最高裁に相当するthe Court of Final Appealはそれを違法と断じ、時に(成文憲法が存在しないため、英国では存在しない)違憲立法審査権を行使し、憲法に相当する「香港基本法」に反するとの一種の違憲判決を下して、立法の文言の一部を無効化してきた実績がありますから、香港人の自由が北京により蹂躙されているということも決してないと思うのです。

 

Xさん:そうだとすると、なぜ私たちはこんなに不満、不安をため込んでいるのですかね?

 

村尾:その決定的理由について、私は次のように考えています。

 

すなわち、1997年6月30日以前から香港では貧富の格差が日本と比較すると顕著でしたが、特に1997年7月1日以降、現在まで、中国の名目GDPが10倍以上に拡大するプロセスにおいて、大陸内で爆発的数の富裕層を生み出し、大陸人が大陸内だけに資産を抱えることへの不安から、香港の不動産(中国人は不動産を貯蓄代替とみなす傾向が顕著です)に継続かつ莫大な投資を行った結果、香港の不動産価格が天文学的価格まで跳ね上がりました(天文学的価格の割には、実際に住んでみると、上で人が走るスリッパの「パタパタ」という音が鮮明に聞こえるなど、日本と比較すると明らかに安普請に感じられるので、香港に移住する富裕層は買うお金があっても、滅多に不動産を購入することはなく、賃借で十分となってしまうのですが)。

 

そのために、香港人の個人名目GDP(2019年5万米ドル超)は日本(4万米ドル超)を25%も上回っているのに、ソリシター(弁護士)夫婦や外科医夫婦であっても、「子供1人を持つか、不動産を持つか」という、本来二律背反ではあり得ない不合理な選択を強いられることになるのです。

 

ましてや、普通のサラリーマンともなれば、自分が生きていくだけで精いっぱいで、子供も不動産も持てないという不安定に置かれる人々が相当数出てくるわけです。

 

本来、せいぜい100年にすぎない人間の一生のクオリティは、「普通の人が普通に真面目に働けば、希望する限り、自分が住むマンションを手の届く金額で購入でき、1人か2人の子供も自由に持ち、しっかりとした教育を与えることができる」かどうかにより決定されるところ、香港では大陸人の過剰な不動産投資の負の産物として、英国統治時代には確かに存在した「普通の人の、普通の暮らし」が消え去り、実際には酷いクオリティの人生を気づかぬうちに強いられている香港人が相対的に増加(急増)した、というわけです。

 

Xさん:そうすると、私たちが本当に怒っているのは、「逃亡犯条例」やデモ隊に催涙弾を投げつけた警察の横暴、(チベット型)抗議の自殺者が3名も出たのに、1つも民衆の話に耳を傾けないキャリーラム行政長官ではなく、失われた「普通の人の、普通の暮らし」だということになるのでしょうか?

 

村尾:少なくとも、私はそう考えています。どれだけ共産主義やそれに立脚する強権型政治に恐怖を抱くとしても、「逃亡犯条例」だけで200万人もの人々がデモに参加するというのは私には合点がいきません。

 

香港人4人に1人がデモを通じて抗議行動をとる背景には、英国統治下では確かに存在した「普通の人の、普通の暮らし」の喪失という事象が重低音の如く流れているのです。

 

Xさん:そうであるならば、香港が安定を取り戻すためには、「普通の人の、普通の暮らし」を取り戻すことこそが重要である、ということになるでしょうか?

 

村尾:私はそう思います。23年間も中国に深く関わっていると、北京の思考形式として、全人代常務委員会を通じて香港基本法を改正するなどして、行政長官が民主派から選択されることを可能にする真の普通選挙とか、民主派議員が自由な議員立法議案を提出できる仕組みとかを採択することを期待することは「白昼夢」の如きお話だと直感的にわかります。

 

ただでさえ、「香港人権法案条例」を通じて憲法上の保障を付与された高度の表現の自由が北京による香港の統治の最大の法的障害になっているのに、なぜこれに加えて「敵」(=民主派やその背後に存在すると北京が確信するアメリカを中心とする西欧諸国)に塩を送るが如き行動をとらなければならないのか、というわけです。

 

しかし、北京が香港の中国復帰に際して、懐柔した香港経済界(=香港富裕層)の利益には大いに反することになりますが、ニューテリトリーや長崎県の971には及ばないまでも、263もある島には不動産開発に適したところも多々あるのですから、そこで庶民に手の届く安価な不動産を大量供給し、そことセントラルをつなぐ交通網を徹底整備することにより、「普通の人の、普通の暮らし」を実現することに香港政府、そしてその背後の北京は全力を挙げるべきだ、と考えます。

 

Xさん:それでも、私たちの北京に対するアレルギーは治らないのではないか、と思うのですが・・・。

 

村尾:人は自分の幸せ級数が十分に高いとき、何かに不満を持て、怒れと言われても、怒ることができない生物です。逆に、不幸級数が高いときには、不満を持つな、怒るなと言われても、何かの契機に不満、不安を爆発させ、外部に表出させる生物でもあるのです。

 

手ごろな価格の不動産の大量供給は、取引事例比較法(market approach)的効果からすると、恥ずべき利益を独占する悪しき資本家の権化とも言うべき香港大手不動産会社の収益環境を悪化させることは確実ですが、200万人もの示威行為で示された香港庶民の抑制不能の不満、不安を緩和するためには、香港政府、そして北京は今こそ香港人の「普通の人の、普通の暮らし」の実現に向けて行動すべきです。

 

それは一方で、北京の社会主義的価値観を香港という資本主義システムのもとで体現する1つの方法ですし、他方で、このままだと、少しでも北京が香港支配を強化する行動をとる毎に、必ず大規模デモが起こり、毎回、香港政府が政治的敗北を喫するという世界的にも面子のない事態が繰り返されます。

 

ロシア革命とその後のソビエト連邦が誕生しても、日本を含む世界の資本主義諸国で労働者が連帯し、暴力革命を起こすところまで行かなかった理由は、19世紀的レッセフェール(なすに任せよ)思想を是正し、生存権保障を憲法上導入し、生活保護制度などセーフティネット制度を導入し、(アメリカは異なりますが、)医療における国民皆保険の導入、年金制度の充実、労働法制による労働者保護の充実を図ってきたからです。

 

日本はバブル崩壊後、アメリカの積極的経済援助を失い、それどころか度々苛めの対象になり、結果、20数年間も名目GDPが成長していない体たらくにあっても、20代の若者の70%が安倍政権を支持する理由は、「権力行政(=金持ち万歳)から給付行政(=社会的弱者の保護)へ」という20世紀的特徴を21世紀の現在にあって、安定的に実現しているからであり、まさに「普通の人の、普通の暮らし」を維持するのに成功しているからにほかなりません(逆に、旧民主党政権は政治の素人の寄せ集めで、結局、「普通の人の、普通の暮らし」を脅かしたので、現在に至るも、野党の党勢が一向に回復しないわけです)。

 

換言すれば、「普通の人の、普通の暮らし」が守られている間は、名目GDPが成長を止めても、圧倒的多数の人は不満、不安を感じないので、過激な行動には決して出ないものなのです。

 

今こそ、香港政府も北京も、マレーシアのマハティールのように「ルックイースト」の対象として日本を参照し、「普通の人の、普通の暮らし」を香港で早急に実現すべきです。

 

それに成功する限り、必ず、北京は香港で今とは比較にならない多数の香港人から感謝され、支持を受け、結果として政治的安定が実現されると確信します。

 

問題の本質は、共産主義vs資本主義、西欧型民主主義vs中国的民主集中制にあるわけでは決してないのです。

 

逆に言えば、ここで香港人の「普通の人の、普通の暮らし」を早期実現できなければ、大陸内部で不動産価格が急落し、高い金利の住宅ローンという負の資産のみが残されたり、養老保険の枯渇が露呈したり、失業率が上昇し、有効求人倍率や新規雇用件数が低下して、最も多数存在する中間層に集団的不満、不安を惹起する事態が生じたとき、「繰り返される香港のデモこそが、私たちの取るべき模範だ!」として、大陸において国家、社会の安定を著しく棄損する事態が生じ得ます(豊かになった中国で、国家がどれだけ情報統制をしようとしても、限界があります)。

 

このとき、大陸では香港の200万人デモなど可愛いもので、1か所で2000万人デモとか、各地の合計で2億人デモ(=バングラデッシュ人やインドネシア人が総出でデモする状態)とかが発生する可能性があります。

 

香港が中国の「獅子身中の虫」になることを嫌うのであれば、北京は今こそ強権的政治行動を一旦圓肪屬、圧倒的多数の香港人から感謝される経済行動をとるべきなのです。

 

 

よく考えると、キャストは、上海事務所も、東京事務所も、東京の自宅も、全部、森ビルだな・・・。ついでに、ホーチミンとか、ヤンゴンにも、作ってくれればよいのだが。

 

以上


■筆者: 村尾龍雄■-----------------------------------------------------------------
弁護士法人キャスト 代表弁護士・税理士
香港ソリシター(LI&PARTNERS(香港)所属)
キャストコンサルティング株式会社 代表取締役
加施徳咨詢(上海)有限公司 監事
加施徳投資香港有限公司 董事
キャストグループ   キャスト中国ビジネス
■東京/大阪/埼玉/上海/北京/蘇州/広州/香港/ヤンゴン/ホーチミン■----------------

 



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