中国−EC発展と共に勃興するインターネット法院

            

2015年にアリババの故郷である浙江省杭州市で生まれたインターネット法院が2018年の今年、北京、広東省広州市の三都市まで広がり、国内、越境共に発展する電子商取引(EC)を支えます。

 

日本の国土の約26倍の中国で、様々なところに分散して存在する莫大な数のEC消費者の少額紛争を含めた合法権益保護のためには、WeChat(微信)を利用するなど、ユビキタス性に富む司法対応が必要不可欠であるという切迫した事情が背景にあると思われます。

 

具体的には、「インターネット法院による事件の審理に係る若干の問題に関する最高人民法院の規定」(最高人民法院/法釈[2018]16号/2018年9月6日発布、同月7日施行)第1条は次の下線部のとおりの原則を示します。

 

第1条  インターネット法院は、オンライン方式を採用して事件を審理するものであり、事件の受理、送達、調停、証拠交換、法廷前準備、法廷審理、判決宣告等の訴訟段階は、一般にオンラインにおいてこれを完了しなければならない。
2 当事者の申立て又は事件審理の必要に基づき、インターネット法院は、オフラインで一部の訴訟段階を完了することを決定することができる。

 

すなわち、補助的にはオフラインでの対応を否定しないものの、原則として訴訟手続きは法廷審理や判決宣告を含めてすべてオンラインで対応することを明確にしています。

 

そこで、インターネット法院はどのような事件を取り扱うのかが気になりますが、第2条は次のとおり規定します(下線部に注意)。

 

第2条  北京、広州及び杭州のインターネット法院は、所在する市の管轄区内における、基層人民法院が受理するべき次に掲げる第1審事件を集中的に管轄する。
  (1) 電子商取引プラットフォームを通じてネットワークショッピング契約を締結し、又は履行して生ずる紛争
  (2) 締結及び履行行為がいずれもインターネット上において完了するネットワークサービス契約に係る紛争
  (3) 締結及び履行行為がいずれもインターネット上において完了する金融借入契約に係る紛争及び小額借入契約に係る紛争
  (4) インターネット上において初めて発表する作品の著作権又は隣接権の権利帰属紛争
  (5) インターネット上において、オンラインで発表され、又は伝播された作品の著作権又は隣接権を侵害して生じた紛争
  (6) インターネットドメイン名の権利帰属、権利侵害及び契約に係る紛争
  (7) インターネット上において他人の人身権、財産権等の民事権益を侵害して生じた紛争
  (8) 電子商取引プラットフォームを通じて購入した製品について、製品欠陥が存在することに起因して、他人の人身又は財産上の権益を侵害して生じた製品責任紛争
  (9) 検察機関が提起するインターネット公益訴訟事件
  (10) 行政機関がインターネット情報サービス管理、インターネット商品取引及び関係するサービス管理等の行政行為をして生じた行政紛争
  (11) 上級の人民法院が管轄を指定するその他のインターネット民事及び行政事件

 

以上のとおり、国内、越境のECを巡る紛争は、基層人民法院、中級人民法院、高級人民法院、最高人民法院という四段階ある人民法院(裁判所に相当)のうち、最下級の基層人民法院が管轄する事件であれば、インターネット法院で審理する、というわけです。

 

行政がインターネット情報サービスを行うなどした場合に生じた行政事件についても、同法院で審理する、というのも興味深いところです。

 

しかし、私が現在相談を受けている日系企業(被告)の紛争案件でも、相手方の中国企業(原告)は平気で偽造をする(=被告の総経理秘書に金員を渡して、会社印を押印させて、ありもしない契約を作成する)などの案件が多数見られるお国柄、証拠交換時に原本確認をする機会のないインターネット法院において、証拠の偽造オンパレードになるおそれはないのでしょうか?

 

これについて、蛇の道は蛇というと中国法院関係者からお叱りを受けるかもしれませんが、次のような規定を置いて、当事者が異議を提起した場合の対応を示しています。

 

第11条  当事者が電子データの真実性について異議を提起した場合には、インターネット法院は、証拠質疑の状況を考え合わせ、電子データの生成、収集、保存及び伝送の過程の真実性を審査して判断し、かつ、次の内容に重点を置いて審査しなければならない。
  (1) 電子データの生成、収集、保存及び伝送において依拠するコンピューターシステム等のハードウェア及びソフトウェア環境が安全かつ信頼可能であるか否か。
  (2) 電子データの生成主体及び時間が明確であるか否か、表現内容が明瞭、客観的かつ正確であるか否か。
  (3) 電子データの保存及び保管媒体が明確であるか否か、保管方式及び手段が妥当であるか否か。
  (4) 電子データの抽出及び保全の主体、手段及び方式が信頼可能であるか否か、抽出過程は再現可能であるか否か。
  (5) 電子データの内容に追加、削除、修正及び不完全等の事由が存在するか否か。
  (6) 電子データについて特定の形式を通じて検証が得られるか否か。
2 当事者の提出する電子データについて、電子署名、信頼可能なタイムスタンプ、ハッシュ値確認、ブロックチェーン等の証拠収集若しくは保全及び改ざん防止に係る技術的手段を通じ、又は電子証拠取得・証拠保存プラットフォームを通じて認証し、その真実性を証明することができる場合には、インターネット法院は、確認しなければならない。
3 当事者は、専門知識を有する者に電子データ技術の問題について意見を提出させることを申請することができる。インターネット法院は、当事者の申請に基づき、又は職権により、電子データの真実性の鑑定を委託し、又はその他の関連証拠を取り寄せて照合することができる。

 

併せて、オフライン対応が必要な場合、例外的にそれを認める規定を置きます。

 

第12条  インターネット法院は、オンラインビデオ方式を採用して開廷する。法廷における身分調査、原本照合、現物検査等を確かに必要とする特段の事由が存在する場合には、インターネット法院は、オフラインで開廷することを決定することができる。ただし、その他の訴訟段階については、なおオンラインで完了しなければならない。

 

旧態依然とするガラパゴス的な司法システムが継続する日本ですが、隣国・中国における司法の改善と進化を勉強するなどして、日本の国益に資する司法改革を進めていけばよいのに、と思わされる年の瀬です。

 

 

特に何がなくとも火の用心を怠らず、近隣に異常がないかを見て回る東京消防庁の皆さん。年の瀬か年始かを問わず、コツコツと地味な努力を続ける姿勢には頭が下がる。こうした伝統的に不変の努力が求められる分野では、真面目な日本人は強い。しかし、世界の進化する司法システムを不断に追いかけ、自国の司法改革につなげるなど、情報収集戦略及び外圧に寄らない自己改革提言となると、日本人はアホとちゃうか、と思うほど全然ダメになる。ダブルスタンダードの落差が激し過ぎて、同じ日本人ながら唖然とさせられることも多い。まあ、カルロスゴーン事件で世界中から日本の異常性が指摘される検察、裁判所が一体となった人権完全軽視の「人質司法」くらいは、またもや外圧利用ではあるものの、この際、しっかりと改革してもらいたいものである。

 

以上

 

■筆者: 村尾龍雄■-----------------------------------------------------------------
弁護士法人キャスト 代表弁護士・税理士
香港ソリシター(LI&PARTNERS(香港)所属)
キャストコンサルティング株式会社 代表取締役
加施徳咨詢(上海)有限公司 監事
加施徳投資香港有限公司 董事
キャストグループ   キャスト中国ビジネス
■東京/大阪/埼玉/上海/北京/蘇州/広州/香港/ヤンゴン/ホーチミン■----------------



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