弁護士事務所の営業戦略(1)−「クレクレ星人」の撲滅

            

 

私たちは尖閣諸島の国有化に端を発する対中直接投資の急減により、2012年の時点で90%以上もの売上げが中国法関連業務に依拠する構造であったことから、売上げ減少の圧力に苦しみ、同時にこの構造下では上海だけで80名もの専門家、スタッフを抱えるなど「良いとき」に合わせた組織体制をとっていたことから、コスト構造の改善が急務となるなど、中小企業なりの構造改革の必要に見舞われました(現在では上海は40名未満の水準にまで絞り込みました)。

 

そこにアベノミクスの影響で急激に進んだ円安(人民元高)に対する防御力が弱かったので、ただでさえ肥大化した上海のコストが円安効果で膨れ上がり、2014年、2015年の2年間は営業黒字の確保に相当苦しみ、泣く泣く中国関係人員のリストラ(仕事量に合わせた適正人員化)を断行せざるを得ませんでした。

 

幸い、2016年には全体の売上げ構造のうち中国法関連業務は50%未満にまで圧縮されて、代わりに香港法を中心とする英語関連の仕事や1名の税理士を東京国税不服審判所に、1名の弁護士を東京国税局に派遣していたのが戻ってきてくれたので、common law jurisdiction(アメリカとかイギリス及びコモンウェルスとか香港とか)が関わる国際相続関係や国際親族関係の仕事が増え、さらにプロボノ的色彩も強いのですが、日本で困っている中国人の刑事案件や民事案件の受任が私たちの徹底した親中姿勢のせいなのか中国語で意思疎通することができる語学力のせいなのかは不明ですが、増加しているので、結果として長年の課題であった事業ポートフォリオの多様化に成功しました。

 

お陰で2016年以降は利益を計上する力が組織的に高まり、不況と言われる弁護士業界の中にあって、相当安定的な経営基盤を築けたのではないか、と安堵しています。

 

もっとも、ここに安座すると、これだけ変化が速い世の中のことですから、また何時苦境に直面しないとも限りません。

 

そこで、2014年、2015年の構造改革の苦しみは私をして「転ばぬ先の杖」としての弁護士事務所の営業戦略とはどうあるべきかを真剣に考察させる契機となりました。

 

依然として成熟性を欠く憾みはあるものの、2回に分けて(つまり2つしか知恵はない)思いついたところを記したいと思います。

 

まずはっきりとわかったことは、日本に限らず、中国でも香港でもベトナムでもアメリカでも、およそ弁護士には営業能力=仕事を取ってくる能力が高い人間が「物凄く少ない」という事実です。

 

仕事を取ってくることができるためには、.ライアントを魅了できるだけの専門知識があることは当然として、△修譴鮟颪い討睿辰靴討皀ライアントを魅了できる方法で披露することができなければなりませんし、その反復継続により「あの人はこの分野で頼りになる」という評判を拡散させ、セミナーやネットや人の紹介など多様なルートを通じて常時クライアントがやってくる(新規ばかりでなく、既存のクライアントの新規の相談を含めて)状況を創り出せなければなりませんが、人生の大半を机に向かって勉強ばかりしていると、,OKでも、△砲弔い峠颪い燭發里倭農欧蕕靴い、話すのが得手ではないことが多々あり、について、社交的性格でないために、仕事がやってくる好循環を創り出す方法が直感的にわからないという現象が生じます。

 

この類型にあてはまる弁護士は自分で仕事を取ってくることができないので、仕事は事務所の方で段取りしてくれ、そして事務所が仕事を段取りできるかどうかには無関係に多額の給与をくれ、という「クレクレ星人」化します。

 

「クレクレ星人」は、本来、自らの力でクライアントを獲得することを本質とする弁護士の個人事業者的側面とは相容れない生物です。

 

事務所に自動的にたくさんの仕事が舞い込む好調期には「クレクレ星人」が事務所を席巻していても、余り困らないのですが、私たちの2014年、2015年のように不況期において「クレクレ星人」の地球(事務所)占拠率が高くなると、途端に「クレクレ星人」が余剰コスト化して、事務所が苦境に陥る可能性が高まります。

 

実際、「クレクレ星人」型弁護士は、,得意で、↓が不得手という構造は嘘であって、↓がある程度できなければ、結局、「自分がクライアントに頼られている」という喜びとそこから生じる責任感のもとで専門知識に磨きをかけようとしなくなりますので、長い月日にはある専門分野(例えば中国法分野)における専門知識(例えば中国法の知識)は本人がどう思っているかは別として、極めて陳腐なものにしかなり得ず、,砲弔い討龍チ萠呂垢薐仟なくなるという状況になってしまいます。

 

そうすると、私が得た答えは、組織から「クレクレ星人」をできる限り追い出し(これには「クレクレ星人」を教育して、「地球人」化することが含まれます。)、「地球人」(´↓を項目により得手、不得手はあれども、ある程度こなせるし、何よりもこなそうとする気概がある人)を増やすことに尽きる、というものです。

 

具体的には「クレクレ星人」であれば、「ああ、仕事が少ないなあ。これじゃあ、ボーナスも貰えないなあ」と溜息ばかりつくのでしょうけれども(そして自らの欠点は是正せずに、私たちよりも「クレクレ」要求にうまく応えてくれそうな他の事務所に移籍する可能性が生じますが、世の中はそう甘いものではないと思うのです。どの事務所にも固有の長所、短所があり、それは中に入ってみなければ真実などわからないのですから。ただ一流企業の法務部−そもそも企業人は「クレクレ星人」で一切の問題はないのですから−への移籍は、それが合う人にとっては素晴らしい選択だと思います。)、個人事件受任が完全に自由である私たちの場合、「でも君は『地球人』なのだから、現在仕事が減少しているA分野ではなく、仕事が急増しているB分野の専門知識を身につけるか、又は個人事件を見つけてきて、給与だけでなく、その分がプラスされるようにすればいいではないか」というお話になるわけです。

 

思うに、「クレクレ星人」と「地球人」の唯一の違いは、一部の天才を除いて才能の有無ではなく、「´↓を項目により得手、不得手はあれども、それを全部こなそうとする気概があるか否か」にあります。

 

この気概があれば、私のように英語の専門知識が全然なくても(本当に大学受験レベルの知識しかなかったのです)、40台後半から香港の司法試験にチャレンジして、何とか英語で法廷に立てるレベルまで持っていくという「根拠なき執念」だけで専門分野を増やすことができます。

 

でも、この気概がなければ、中国にいかに留学してもビジネスレベルの中国語会話能力は永遠につきませんし(毎日必ず話す、聞く機会を例外なく確保しなければ語学力は落ちるのですから)、英語の会話能力も同様でしょう。

 

また、英語の場合、帰国子女で英語会話能力だけは抜群であったとしても、common law jurisdictionの法概念はいずれも相当複雑なので、案件に登場する法概念(例えばtrustとかprobateとかdomicileとかwillとか)を、テキストを1、2冊読んで習得するだけでも相当な労力がかかることになると思うのですが、これも普段の仕事をしながらこなそうとすると、やはり相当な気概が必要です。

 

いずれにせよ、地球から「クレクレ星人」を撲滅することにこそ弁護士事務所の営業戦略の英知が集約されているはずであり、そのためにはボス(私たちの場合、私)が誰よりも強い気概を持って継続して新たな専門知識を身につけ続ける姿勢を示すこと、そしてその重要性を内部で語り続けることしかないと考えています(ボスが勉強しない弁護士事務所は100%の確率で滅びます)。

 

 

こうして私たちの組織は対中直接投資に従事する専門家こそ環境の変化に応じて絞り込みましたが、その結果、組織における「地球人」の比率が飛躍的に高まり、それが安定的な利益計上力につながったと確信しています。

 

日差しが強くなった上海。定宿の浦東シャングリラから撮影する何時もの景色だが、手前に赤いジョギング専用レーンが整備されているのが見えるだろうか。上海では現在街の至るところで市民が散歩やジョギングを楽しむことができる環境が整備されつつある。PM2.5の影響こそ懸念されるものの、ハコモノだけではない、きめ細かな街づくりが進む。

 

以上

 

 

■筆者: 村尾龍雄■-----------------------------------------------------------------
弁護士法人キャスト 代表弁護士・税理士
登録外国弁護士(日本法)(LI&PARTNERS(香港)所属)
キャストコンサルティング株式会社 代表取締役
加施徳咨詢(上海)有限公司 監事
加施徳投資香港有限公司 董事
キャストグループ   キャスト中国ビジネス
■東京/大阪/上海/北京/蘇州/広州/香港/ヤンゴン/ホーチミン■----------------------



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